いよいよとか、もうそんなとか。今年も押し詰まって参りましたねぇとか。ニュースや情報番組などなどの枕にと、あちこちで言われるような頃合いと相なり、
『それでも今年は、
紅葉の名所からのライトアップとか、
クリスマスツリーへの点灯式だのイルミネーションだの、
きらびやかな夜景の話題をあんまり聞かないねぇ。』
ハロウィンが終わったらすぐにもっていうノリで、そういう話題ばかりとなるかって思ってたのに。この秋は暖かだったから紅葉が遅かったからか、それとも、これもやっぱり不景気のせいだろかねぇなんて。随分とほのぼのとした(?)会話を交わした桜庭さんや、今期のキャプテンだった進さん率いる、新生 王城ホワイトナイツとの関東頂上決戦をこなして早や数日。クリスマスボウルで、関西の雄・帝黒学園と雌雄を決するその日まで、決して気を抜いてちゃあいけないのではあるけれど。何もガンガンと練習し倒しゃいいってもんじゃあない。当日に外すと筋力が多少はアップするという、いわゆる“ドーピング効果”狙いの荷重作戦をするにしたって。あんまりにも長々構えてちゃあ、消耗の方が勝(まさ)っての、破綻や自滅につながりかねないというもの。それでと、自由調整につかえるオフの日も何日か、スケジュールの中へと組まれていた、そんな貴重な休日になったとあって。
「あのあの、えっと…。///////」
メールこそ 相変わらず毎日送り合ってはいても、そこはやっぱり……ご本人と逢いたい。
「うん…大好きですvv」
電話じゃあ話題が途切れるとすぐにも切っちゃうお相手なので、直に、面と向かって、じかに逢いたい。特に何か話す必要があるわけでもないけれど、それでもお声が聞きたい。もうとっくに大人の人の、低くて落ち着いた男らしいお声が聞きたい。
「意外と甘いんですよねvv」
話題が無いなら無いで黙り合ってたっていい。相手の気配を間近に感じて、同じ空間に今一緒にいるんだっていう、そんな雰囲気にくるまれてるってだけでも、あのね? 何でだか、凄っごく凄っごく幸せだなぁって気分に満たされるから。
「あ、こんな風味がするんだ。」
「意外でしょ? そんなに砂糖とか入ってないのよ?」
「え? それでこの甘さなんですか?」
畳を敷き詰めた純和風の大広間。よくよく手入れの行き届いた建具は、縁取りの枠の漆が深みのある黒を光らせていて、居室の空間へ沈着な冴えをもたらし。床の間に生けられた花は、寒菊の大小を清楚に配した淑やかさ。違い棚に並べられた焼き物も、実は立派なインテリアであり、そういえば季節によって違うのを置いておいでだと口にしたらば、お母様が“さすがは瀬那くんねぇ”とほっこり微笑ってくだすって。
『清ちゃんなんて、
今からお正月飾りを置いたって気づきもしないのよ、きっと』
そんな茶々を入れていた、進さんのお姉さんのたまきさんが、さあさあと、ご訪問したばかりなセナを引っ張り込んだのが。そうまできっちり整然と、和風の拵(こしら)えでございますというお顔をした、大広間の上座であり。そんな広間の中程へ、でんと据えられてあった黒塗りの角卓の上には、ふんわりした白やピンク、赤に橙、紫に緑。そこだけ異空間のよな、華やかな色彩とそれから。きっちりと角が立っているにもかかわらず、いかにも柔らかな印象の、生クリームやらチョコに飴。金紙銀紙のみならず、ちょっぴり凝ったセロファンの包装も それぞれに可憐な。愛らしいケーキが幾つも幾つも、大皿小皿に所狭しと盛り付けられてあり。
「これ全部、クリスマス・スィーツの試作品なんですか?」
「そーなのvv」
日頃からも大きな瞳をいよいよ真ん丸に見開いた、セナくんからの称賛混じりのお声へ、応じるお声も思わずだろう、るんたった♪と軽やかに弾む。ご本人はどこかきりりと冴えた印象のする、いわゆる“クール・ビューティ”という風貌のお姉様だが、その実、お料理やお菓子作りもお得意のたまきさん。今でこそ旅行代理店にお勤めだが、学生時代はQ街じゃあ、いやさ、マニアにはその名を広く深く知られた名店、超高級スィーツ専門店『アンダンテ』でのアルバイトをこなしておいで。しかもしかも…舌の確かさとセンスを買われ、アルバイトにもかかわらず、企画部への出入りを認められ、新しいケーキ開発に一言を述べられるだけの権限まであったという、本店バックヤードで今でも語られ続けておいでの伝説のお姉様で。
「メインのホールケーキはね、
チーフ・パティシェが、企画もデザインもビシッと決めたそうなんだけど。」
スィーツ界のメインイベント、クリスマスケーキのお話が、どういう訳だか…元・企画部補佐だった たまきさんへも飛んで来たのだそうで。
「ほら。今時は何でもかんでも“激安”とか“ワケあり”とか、
味やブランドとは次元が違うところで持て囃されてるでしょう?」
別段、売り上げとか数字とかにはこだわらない、由緒あるお店じゃああるけれど。だからって、あんまり敷居が高すぎても、乙に澄ましてて偉そうで。とはいえ、今時のニーズって何なのかって話になると、先の現状から参考になるような話は到底聞けない昨今で。
「そいで。今時のOLではある訳だからって、
あたしに“白羽の矢”が立ったわけ。」
ハロウィンのプチタルトだって、あたしがコレって推したのが、結局一番売れたんだものと。どーだと胸を張ったお姉様だが、
「でも、さすがにクリスマスのはね。」
ハロウィンはまだまだ認知度も低めだが、クリスマスとなると そうもいかない。と言いますか、さすがにクリスマスのメインは、オーナーやチーフ・パティシェたちが、企画からモチーフからきっちりと固めて、自信の逸品を送り出したのだけれど。それとは別口、小ぶりな1ホールが2万もするよな、そうまで豪華なケーキはちょっとねぇという層への、愛らしいプチケーキの方へと、またまたご意見ちょうだいとの、お声がかかった たまきさんだったそうなのへ。実はこちら様も、今時のお嬢さんがたの好みと言われてもねぇと、微妙に困っておいでだったそうで。
「それで、今時流行の“草食男子”のご意見も訊いてみたくなったのvv」
「草食男子…。」
せめて、スィーツ男子とか、もっと無難な言いようが…。これでも一応はアメフトという男らしいスポーツでも揉まれて、昔よりかは雄々しくなったつもりでいたのにねぇ。そんな心情示すよに、微妙なお声でリピートしちゃったセナくんだったものの、さあどうぞと目の前へ並べられた、カラフルで愛らしいショートケーキの数々には、ついつい眸を奪われてしまったり。
「凄い品数ですねぇ。」
「でしょう? 此処から3つほど選べって。」
「え? たったそれだけなんですか?」
「そう。沢山あればいいってもんじゃあない、
限られた種類のを、厳選された材料と集中で、
どこにも遺漏なく作って提供する。
つまりは完成度っていうクオリティを落とさぬための少なさ、
精度を優先した限定っていうプレミアスィーツなんだって。」
「む、難しいものを追及してなさるんですね。」
こんなに愛らしくも柔らかいものを、そうまでかっちりした姿勢で提供してなさるとはと、案外骨太な職業なんだとの認識も新たに。プレーンな生クリームにイチゴのショートから、対するチョコレートものでは、クリームにココアを交ぜ込んだタイプとそれから、表面へのコーティングがエナメルを思わすなめらかさの ガトーショコラと。中にサンドされているのがオーソドックスに黄桃のもあれば、キウィのグリーンが利いてる変わり種もあるし。今時だったらやっぱりマンゴーかしら? ドラゴンフルーツやカシスの赤紫は大人っぽい雰囲気だし、ブルーベリーの紫もシックで素敵。流行と言えばのロールケーキも、ブッシュド・ノエルだと思えばむしろクリスマス向きかもで。タルトとプディングも一応は候補に上がってるんだけれど、アタシとしてはやっぱり、スポンジケーキ系がダントツだと思うのよね。
「ねえねえ、セナくんはどれが一番好き?」
「いやあの、一番好きなのって言われても…。」
あくまでも参考意見ってやつで、名前だって出さないし、自分の好みで言ってくれていいのよぉ。ほらほらどれだ…と問われても、あまりにきらびやかで、しかもしかも、どれをとっても 丁寧ないいお仕事をされている逸品揃い。
「えっとえっとぉ。」
お下がりしか回って来ない“みそっかす”なのも辛いものがあるけれど、選ぶ側っていうのも大変なんだなと。思わぬところでそんな体験、してしまった韋駄天ランニングバッカーさんだったりしたようで。
◇◇◇
文字通りの山ほど用意されてあったスィーツの数々の中から、それでも何とか3つほどを“一番好きです”と選び出し。それでやっとこさ“お役御免”と放免され、今はお二階の進さんのお部屋に通されているセナであり。
「ふや〜〜〜。」
丁度おやつの時間帯ではあったので、小腹も空いててさほどの苦行でもなかったが。それでもああまでの量へと立ち向かったのは、
“初めてって訳じゃあなかったけれども。”
あ、そういえば。何かにつけ、大量にケーキ買って来るお人もおりましたしねぇ。でも、そっちの場合は、買ってきた張本人である栗田さんとか同席するまもりさんがなかなかの“つわもの”だったから。ケーキでお腹が一杯になったというのは、今日こそ初めての体験でもあり。
「すまなかったな。」
後から遅れて入って来た進さんが、すっと差し出した小さな盆には。お母様が持たせたか、胃腸薬とお水のコップが乗っていて。一応飲んでおきなさいというお気遣いへ、あわわと慌てて居住まい正すセナだったりし。すまぬというのは勿論のこと、
「無理強いばかりする姉で。」
途中で制すりゃよかったのかも知れぬが、それでなくとも寡黙な弟が、尚のこと口の挟みようがないように持ってゆく、なかなか巧みな姉なので。悪気はないらしいのだが、あの強引さはそろそろ何とかしてもらわねばと、はぁあという吐息をつく彼だのへ、
「あ・いいえ、そんな…。」
だってあの『アンダンテ』のケーキですもの。それもあんなたくさんの種類を一遍に食べる機会なんて、そうそうあることじゃありませんから。
「楽しかったですよぉvv」
うふふと目許をたわませての、柔らかく微笑ってくださる、童顔な恋人さんのその愛らしさへこそ、
「〜〜〜〜〜。//////」
うわと分厚い胸板 貫かれたらしき仁王様だったようだけど。頬やお耳の先が赤らみもしたものの、いただいたお薬をこくこくとお水で飲み下していたタイミングだったので、セナくんのお眸には留まらなかったようでして。だからこそだろか、
「でも、まだまだあんなにあって、後はあのお二人で大丈夫なんでしょうか。」
まさかに全部へ口をつけた訳じゃあない。好きなのと言われて“それじゃあ”と、生クリームのとあれとそれかな?と、ジャンルを絞ってからご相伴させていただいたのであり。まだまだ半分以上の 2、30ほどが残っていたような。いくら女性は甘いものが別腹らしいとは言っても、たまきさんもお母様も すらりとした小柄なお人。大変なんじゃあなかろうかと思うにつけ、自分はあんまり役に立てなかったのかもと、小さな肩をしょんもりと落としてしまうセナであり。
“…これだから。”
何でもかんでも自分へ非を引き取るような、そんな優しい君だと判っているから。わあ凄い御馳走ですねで済みゃあしまいと、無理強いにならぬかを懸念していた清十郎さん。ほれ見たことかと、微妙な角度に眉寄せる。自分も他人のことは言えない唯我独尊型なれど。ずっとずっと、この優しい少年のその繊細さに惹かれ、寄り添って来たのだから、そろそろその思考のパターンを覚えもするというもので。お膝に乗っけた…突き指や擦り傷を隠したそれだろう、絆創膏だらけの小さな手を、もじもじと擦り合わせる仕草の何とも心許ないところとか。この自分を速さで置き去りにできる唯一の存在だのに、それ以外の場では、こうまで頼りなくての……愛しき人で。
「…案じなくともいい。」
「え?」
そもそも、小早川が案じてやる必要はないことだ…と、つれない言い方をしては逆効果だと。いつもいつも桜庭が口を酸っぱくして言っていたから、えっとだな。
「何となれば、食事代わりにでもケーキを食えるのが姉だ。」
「それは…。」
そういう人がいるというのは、訊いたことがないではないですが。でもでも、進さんのお家ってそういうけじめには厳しいお家なんでは?と。何とはなくの懸念が消え切らないお顔をするセナなのへ、
「それに、俺も多少ならば手伝える。」
「……………え?」
だってだって、進さんは甘いものってあんまり…そうそう、カロリーが高いものばかりですもの。あまり得意ではないと、言ってませんでしたか?と。やはり怪訝そうに小首を傾げ、口許へその小さな手を持って来るセナだったが、
「……。」
「え?」
その小さな手をそおと掴み取った清十郎さん。何を思ったか、いやさ、何を見つけてのことか。彼の側には小指の側が見えてたその手の、その小指の付け根に連なる側線へ。するりと…そりゃあなめらかにも手際よく、自分の口許添えたものだから。
「 ……………なっ☆」
暖かで柔らかな感触と、間近になった伏し目がちの精悍なお顔と。これってもしかせずとも、手へのキスで。でもでも、なんで? えとえっと?///////// あまりに急なアプローチへと、茹だったみたいに真っ赤になったセナだったのへ、
「うむ。この程度の甘みなら。」
手から離れた口許には、うっすら白いクリームの跡が。もしかせずとも、うっかりと手にクリームがついていたままだった セナだったらしいのを。咎めるどころか、そこでお味見をした進さんだったのであるらしく。
「この程度の甘みなら、さほど苦にはならないぞ。」
「そ、そそ、そうなんですか?////////」
どこまで意味が通じてた会話だったやら。あたふたしかかるセナくんを、どうどうどうと落ち着かせ、
“もっと甘いものでも、うむ、そういや平気だったような。”
えっとえっとと落ち着きなくいる、柔らかそうな誰かさんの口許の方が、もっとずっと甘かったことを引き合いに出して、甘味も悪くはないと思ってるらしい進さんなようで。あんまり進歩のないのはセナくんばかりかも知れませんねと、窓のお外を舞い散るモクレンの葉が かさこそ囁き合ってた、とある昼下がりのことでした。
〜Fine〜 09.11.28.
*背景の写真素材をお借りしました→ 
*こんな“お味見”どころじゃあない、
イチゴの味がするなんてのを
確かめたことだってあったのにね。(くすすvv)
既にキッスも交わしていたって、
急なタッチはやっぱりドキドキするセナくんであるらしいです。
ちなみに、激辛Ver.もラバヒルで書いたことがありましたな。(笑)
めーるふぉーむvv
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